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脳腸相関とは?メカニズムや疾患例をわかりやすく解説

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大事なプレゼンの前に緊張でお腹が痛くなったり、テスト前に心拍数が上がって汗が止まらなくなったりした経験はありませんか?
これらの状態は「心理的・社会的要因」によるストレスが関係しており、人が危険から身を守るための防御反応とされています。

しかし、現代では慢性的なストレスを抱える人も多く、そのままにしておくと体や心に大きな不調をもたらします。最近の研究では、ストレスによる過敏性腸症候群やうつ病などの症状が注目される中で、「腸の状態が脳にさまざまな影響を及ぼす“脳腸相関”」という言葉が使われるようになりました。

本記事では、「脳腸相関」について詳しく解説し、腸内環境を整えることで得られるメリットをわかりやすく紹介します。

脳腸相関とは?読み方は?

「脳腸相関」とは、「のうちょう‐そうかん」と読み、英語では「brain-gut interaction」といいます。この概念は、脳と腸がさまざまなホルモンやサイトカイン(細胞から分泌されるたんぱく質)を介して双方向に信号を送り合い、情動や生理機能に影響を及ぼし合うことを指します。

例えば、「緊張するとお腹の調子が悪くなる」という現象は、脳が感じたストレスが自律神経を通じて腸に伝わり、便意をもよおすことです。逆に、おいしそうな食事を見た時には、消化管からホルモンが分泌され、食欲を感じることがあります。
腸が不調になるとその情報が神経系を通じて脳に伝わり、抑うつや不安感などの症状が表れることもあります。

このように、腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど独自の神経ネットワークを持ち、脳からの指示とは無関係に自発的に活動することができる臓器です。

厚生労働省の「2019年 国民生活基礎調査の概況」1によると、12歳以上の47.9%の人が「日常生活での悩みやストレスがある」と回答しています。特に30代~50代の男女では、5割以上の人がストレスを抱えていることがわかりました。

現代社会では誰もがストレスと無縁ではいられません。腸の調子を整えることでメンタルケアが可能になるのであれば、健康維持のために注目すべきだと言えるでしょう。

脳と腸の研究でわかってきたこと

ヒトの体にとって脳は非常に重要な器官ですが、腸は単なる消化器官と考えられがちです。

しかし、1980年代の研究で「脳の伝達物質であるセロトニンの8割が腸管でつくられる」ことが発見されました。この発見により、脳と腸には密接な関係があるのではないかと考えられ、研究が進められてきました。

その結果、腸は脳の指令に従うだけでなく、「腸管神経系」という独自の神経ネットワークによって自ら判断し、行動することが明らかになりました。

専門家によると、生物の進化の過程を考えると腸がこのような機能を持つ理由が理解できるといいます。
約40億年前に登場した最初の生物である「ヒドラ」は、口と肛門のみを持ち、腸が体の大部分を占めていました。その後、神経細胞が発達し、脊髄や脳が出現するという進化を遂げました。こうした進化の過程から考えると、「第二の脳」と呼ばれる腸は実は最初の脳、つまり「ファーストブレイン」であるとも言えます。

以下では、腸が消化器官以外に持つ役割を、具体的な事例とともにご紹介します。

脳よりも腸で多くの幸せホルモン(セロトニン)は作られる

神経伝達物質として知られる「セロトニン」は、「幸せホルモン」とも呼ばれます。その理由は、セロトニンが感情のコントロールや精神の安定に大きく関わっているからです。

多くの人はホルモンが脳で作られると考えがちですが、実際には脳で作られるセロトニンは全体の約2%に過ぎず、約8%が血中、残りの約90%が腸で作られています。このホルモンをつくるのは、腸に生息する「腸内細菌」です。

成人の腸には約1000種類、100兆個以上の腸内細菌が存在し、食事の栄養素を餌にしてさまざまな物質を生成します。セロトニンは、その中でも「トリプトファン」という必須アミノ酸を元につくられます。腸内で作られたセロトニンは直接脳に送られることはありませんが、腸で吸収されたトリプトファンが腸から脳に運ばれ、そこでセロトニンが作られます。

腸は免疫系・内分泌系・神経系の働きが発達している

腸は単なる消化器官ではなく、腸内細菌によって体にさまざまな影響を与える臓器として知られています。腸が他の器官にも働きかけるのは、免疫系や内分泌系、神経系の機能が発達しているからです。

免疫系

私たちの体にはウイルスや病原菌から身を守るための防御システムである「免疫機能」が備わっています。全身の免疫細胞の約7割が腸に存在しており、「腸は最大の免疫器官」と言われています。腸の免疫機能は「腸管免疫」と呼ばれ、腸内フローラ(腸内細菌叢)と重要な関わりがあります。

口に入った病原菌は主に胃で消化されますが、一部は腸まで達します。腸の免疫細胞が病原菌を「異物」と判断すると、腸壁から免疫物質を放出し、病原菌から体を守ります。腸内のビフィズス菌などは、免疫細胞を活性化するために「短鎖脂肪酸」を産生します。

内分泌系

ヒトの体内では100種類以上のホルモンが作用し合っています。
腸では、消化吸収や消化管の運動調節、血糖の調整を行う「消化管ホルモン」が作られます。例えば、食後に「お腹がいっぱい」と感じるのは、小腸から分泌される「コレシストキニン」や「グルカゴン様ペプチド-1」といった満腹ホルモンの働きです。これらのホルモンは、胃から腸への食べ物の移動をゆっくりさせ、消化を促進し、脳内の受容体に作用して満腹感を感じさせます。

このように、腸は「独立した内分泌代謝臓器」としての役割も果たしています。

神経系

腸は「自ら考え、活動する」臓器と言われています。これは、腸に脳と同じように情報を処理し、伝達する「神経細胞」が存在するためです。脳の神経細胞は1000億個と言われていますが、腸の神経細胞の数は約1億個で、脳に次いで多い器官です。腸管は数メートルの長さがあり、その壁には神経細胞が網目状に張り巡らされています。

腸管神経系は、脳の指示を受けることなく、腸の内容物を肛門へ移動させる「ぜん動運動」や、内容物と消化液を混合する「分節運動」、嘔吐時に働く「逆ぜん動運動」など、さまざまな運動パターンや血流を制御しています。

脳腸相関と腸内細菌の関係とは?

ストレスによって下痢や腹痛、便秘などの症状が現れる「過敏性腸症候群(IBS)」や、便秘が慢性化して気分が落ち込み抑うつ状態になるなど、脳と腸は密接に関係していることがわかっています。
この「脳腸相関」には、腸内に生息する「腸内細菌」が大きく関わっていることが最新の研究で明らかになってきました。
これにより、「脳腸相関」は「脳-腸-微生物相関」という概念へと変わりつつあります。

以下では、脳腸相関と腸内細菌の関係について詳しく解説します。

腸内細菌は3種類に分けられる

腸内には100兆個とも言われる腸内細菌が生息しており、その総重量は1.5キロから2キロにも及びます。
これらの細菌は大きく「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分類されます。

健康な成人の腸内では、善玉菌が全体の約20%、悪玉菌が約10%、日和見菌が約70%のバランスで存在しています。

このバランスは体調や年齢によって変化しますが、善玉菌が多すぎても良いわけではなく、善玉菌が優勢でバランスの取れた状態を保つことが重要です。

以下では、それぞれの細菌の特徴をご紹介します。

善玉菌

善玉菌は、食べ物の消化・吸収をサポートしたり、ビタミンを作り出したり、悪玉菌の増殖を防いだりなど、さまざまな効果があります。

整腸作用もあり、腸内フローラのバランスを整えることで免疫力の向上や老化防止が期待できます。代表的な善玉菌にはビフィズス菌や乳酸菌があり、ヨーグルトや味噌、納豆などの発酵食品に含まれています。
善玉菌を増やす効果のある食品は「プロバイオティクス」と呼ばれます。

悪玉菌

悪玉菌は腸内環境を悪化させ、発がん性物質などの有害物質を生成することがあります。

悪玉菌が増えると、下痢や便秘の原因となり、免疫力の低下にもつながります。代表的な悪玉菌には大腸菌(有毒株)、ウエルシュ菌、ブドウ球菌などがあり、これらが増殖すると食中毒の原因にもなります。

悪玉菌は腸内だけでなく、皮膚などにも生息しており、感染症の原因になることもあります。

日和見菌

日和見菌は善玉菌や悪玉菌のどちらにも分類されない腸内細菌です。

健康な時には特に良い働きも悪い働きも見られませんが、悪玉菌が優勢になると有害物質を生成し、善玉菌が優勢な時には善玉菌の味方になります。このため、日和見菌の働きは腸内環境によって変わります。

代表的な日和見菌にはバクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌などがあります。

ビフィズス菌とストレスの関係

2004年、九州大学の須藤信行教授らの研究2によると、腸内のビフィズス菌などの腸内細菌はストレスに深く関係していることが明らかになりました。
実験には通常のマウス、腸内細菌を除去した無菌状態のマウス、バクテロイデス菌(日和見菌)を持つマウス、ビフィズス菌を持つマウスが使用され、それぞれのストレス反応が比較されました。以下の表にその結果をまとめています。

マウスの種類 ストレス反応
通常のマウス 通常
無菌マウス 通常のマウスより過敏な反応
バクテロイデス菌を持つマウス 無菌マウスと同程度の反応
ビフィズス菌を持つマウス 通常のマウスと同程度に低い

無菌マウスに腸内細菌を移植すると、ストレスに対する過剰な反応(HPA系の反応)がなくなり、正常な反応に戻ったことが確認されました。

この実験結果から、脳のストレス反応は腸内細菌の有無によって影響されることが明らかになりました。また、ストレス反応を抑えるのは腸内細菌全般ではなく、ビフィズス菌など一部の腸内細菌が関与していると結論づけられました。

さらに、2021年に藤田医科大学の毛利彰宏准教授らのグループが行った研究3では、加熱殺菌したビフィズス菌でも同様に抗ストレス効果があることが分かりました。

現在、国内外で発酵食品に含まれる生きた腸内細菌が普及していますが、生きた菌は保管温度や衛生管理の面で扱いづらく、使用できる製品が限られていました。
今回の研究によって、衛生管理が容易な加熱殺菌した菌を使い、多岐にわたる製品への応用が可能となりました。また、うつ病の症状緩和など、医薬品への応用も期待されています。

腸内細菌と発育の関係

成人の健康な腸内には多種多様な腸内細菌が存在しますが、これらは生まれた時から備わっているわけではありません。
胎児の腸内は無菌状態で、加齢と共に腸内細菌が発達していきます。新生児期に母乳を摂取すると、乳糖やガラクトオリゴ糖を栄養にしてビフィズス菌が増殖します。離乳食を経て、3歳頃には大人と同様に善玉菌、悪玉菌、日和見菌が揃います。

出生時の体重が2500g未満の低出生体重児は、腸内フローラの形成が遅れがちです。こうした赤ちゃんにビフィズス菌(M-16V)を摂取させることで、腸内フローラの形成がサポートされることが分かっています。

また、妊婦の腸内細菌叢を安定させることで、新生児の腸内細菌叢も健全化する可能性があります。新生児の腸内細菌叢は、抗菌薬の服用や出産形式(経腟分娩か帝王切開か)、授乳の形式によっても大きく変わることが示唆されています。

興味深いのは、腸内細菌の構成が人種や居住地によって異なることです。
例えば、アフリカのハヅァ族という狩猟民族の腸内細菌を調べた研究では、欧米人とは異なる多様な細菌が見つかりましたが、ビフィズス菌は検出されませんでした。これは、狩猟採集社会から農耕社会へ移行した際に腸内細菌の構成が変わったことを示しています。

腸内細菌と関連する疾患

腸内細菌の状態は、人種や地域、環境、さらには抗生物質の摂取や生活習慣によって大きく影響を受けます。
腸内細菌叢の悪化や改善は、消化器系だけでなく、精神神経系、代謝系、自己免疫系の疾患とも密接に関連しています。

以下では、腸内細菌と深く関わる疾患についてご紹介します。

パーキンソン病・認知症(アルツハイマー病)などの神経系疾患

腸との関係が最も注目される病気に、パーキンソン病や認知症(アルツハイマー病)などの中枢神経系疾患があります。

これらの疾患を持つ患者の腸内フローラを調べると、健康な人と比べて種類が偏っていることが分かっています。脳と腸、そして腸内細菌は相互に作用しており、「腸管神経」「迷走神経」といった神経系がそれらを繋ぐルートとして考えられています。

・パーキンソン病

例えば、パーキンソン病の原因となる「αシヌクレイン」というたんぱく質は、腸内でも作られ、迷走神経を通じて脳に伝わると推測されています。実際、腸と脳の間にある迷走神経を切除した人は、パーキンソン病の発症リスクが約半分になることが分かっています。

・認知症(アルツハイマー病)

森永乳業の研究4では、乳児の糞便から単離したビフィズス菌A1をマウスに投与すると、認知機能が改善されました。さらに、軽度認知障害(MCI)が疑われる高齢者にも同様の実験を行ったところ、認知機能の改善が確認され、さらなる有効性の検証が期待されています。

現在、国内の軽度認知障害(MCI)人口は約400万人とされ、高齢化社会を迎えた日本にとって認知症予防は大きな課題です。ビフィズス菌を活用した研究は、高齢者医療の発展に繋がると期待されています。

糖尿病

自己免疫系の疾患である1型糖尿病なども、「脳・腸・腸内細菌」の相互関係が関与しているとされています。

1型糖尿病は、膵臓から分泌される「インスリン」の働きが低下し、それによって血中の血糖値が増加する病気です。

1型糖尿病の児童の糞便分析では、「バクテロイデス」という日和見菌が多く含まれ、一方で「セガテラ コプリ」という腸内細菌が減少しているという報告があります。
また、2型糖尿病患者においても、健常者と比較して腸内細菌叢が異なるという報告があります。

糖尿病が発症すると腸内細菌叢に影響が出るのか、それとも腸内細菌叢の変化が糖尿病を引き起こすのか、その結論はまだ出ていませんが、糖尿病が単なる高血糖だけで説明できないことが示唆されています。

このため、今後は1型糖尿病の発症を予測する際に腸内細菌叢の変化を観察し、腸内細菌を調整することで予防に貢献する可能性があります。

肥満

最近の研究によると、腸内細菌が肥満などの病態に関与していることが分かっています。

例えば、肥満患者の糞便を健康な動物の腸内に移植すると、動物も肥満の症状が現れることが確認されています(FMT/糞便移植)。具体的にどの細菌が肥満の原因になっているかは特定が難しいですが、2023年に生命医科学研究センターの大野博司氏が発表した研究結果5によると、腸内細菌の「Fusimonas intestini」(FI)が肥満や高血糖を引き起こしている可能性が明らかになりました。

マウスを用いた実験では、このFIを腸内に定着させたマウスに高脂肪の食事を与えると、FIのいないマウスと比較して、体重や内臓脂肪の増加が顕著でした。つまり、特定の腸内細菌が肥満を悪化させることが示されました。

また、高脂肪の食事を与えたマウスの糞便分析からは、エライジン酸などの悪玉脂質が増加していた一方で、血中の脂肪酸にはほとんど変化が見られませんでした。

これにより、FIによる肥満や高血糖は、血液を介さずに直接腸から引き起こされている可能性が考えられます。

IBS(過敏性腸症候群)

IBS(過敏性腸症候群)は、精神的ストレスや自律神経の乱れにより、腸が刺激に過敏に反応し、腹痛や便秘などの症状が現れる病気です。

IBSは一般的に「下痢型」「便秘型」「混合型」「分類不能型」の4つのタイプに分類されます。国際的な診断基準であるRomeⅠ~Ⅳにおいて、最新版のRomeⅣでは以下のように定義されています。

1.腹痛が過去3カ月間で少なくとも1週間につき1日以上ある。
2.この腹痛は、以下のうち2つの便通の異常を伴う。
  排便に関連する。
  排便頻度の変化に関連する。
  便の形状(外観)の変化に関連する。

3.症状が始まってから6カ月以上経ち、基準を満たす期間が3カ月以上続く。

IBSの原因には、食生活の乱れや飲酒、不規則な生活習慣が関与することもありますが、ストレスも重要な要因です。
最近の研究で、感染性腸炎後にIBSを発症するケースがあることから、腸内細菌の変化がIBSの発症に関与していることが明らかになっています。

IBSの患者では、脳が感じた不安やストレスが腸に伝わりやすく、その結果痛みなどの症状が強くなることがあります。また、脳と腸の相互作用により、腸の不調が脳に影響を与え、さらにストレスが増大するという悪循環が生じます。

これらの症状を改善するには、根本的なストレス管理が重要ですが、腸内環境を整えるための栄養補助や薬物治療も効果が期待されています。

うつ病(抑うつ)・その他精神疾患

精神疾患であるうつ病や統合失調症、パーソナリティ障害は、長らく脳由来の病気と考えられてきましたが、最近の研究により、「便秘」がその代表的な症状の一つとして挙げられ、腸内環境との関連性が指摘されるようになりました。

うつ病患者は下痢や便秘、腹痛などの症状を健康な人に比べて3〜5倍も多く抱えていると報告されています。さらに、うつ病患者の腸内環境を調べた結果、有用菌であるビフィズス菌などが健康な人よりも少ないことが分かっています。

2021年には北海道大学大学院先端生命科学研究院の中村公則准教授が、「αディフェンシン」というパネト細胞によって腸内細菌叢を調整し、うつ病の改善が可能であるとする研究結果を発表6しました。
実験では、うつ病モデルのマウスの小腸を調べ、パネト細胞の数やαディフェンシンの減少を確認した後、αディフェンシンを経口投与しました。その結果、うつ病患者において減少していたグルタミン酸やウラシルなどの代謝物が増加したことが示されました。

うつ病によって乱れた腸内環境は、さらなる症状の悪化をもたらします。そのため、腸内環境の改善がこの悪循環を抑止できる可能性があります。さらに、腸内細菌が生成する「Butyric acid(BA)」という短鎖脂肪酸が抑うつ効果を持つことが注目され、精神医療への応用が期待されています。

発達障害・知的発育障害

発達障害や知的発育障害は、神経系の発育や機能に不全が見られる特徴があります。こうした症状や自閉スペクトラム症では、高頻度で便秘が見られ、腸内環境との関係が示唆されています。

関西医科大学の研究7によると、早産で生まれた自閉スペクトラム症(ASD)児の腸内フローラを調べた結果、定型発達児とは異なり、腸内フローラの多様性が高くなっていることが分かりました。

また、別の報告8によると、2歳から8歳のASD児137名を対象にした調査では、24%が下痢や便秘、腹痛などの慢性的な消化器症状を抱えていると報告されています。

さらに、消化器症状のあるASD児は、症状がないASD児に比べて、苛立ちや多動などの行動障害や不安症状がより顕著に現れていることが示されました。

腸内フローラは、精神障害や多動などの行動障害、そしてストレス耐性や不安症状に密接に関わっており、これらの改善が新たなASD治療法の確立につながる可能性が注目されています。

脳超相関に良い食品と摂取方法とは?

近年、腸内環境の改善が精神疾患などに良い影響を与えることがわかっています。

このため、ストレス軽減や記憶力維持を目的とした食品が登場し、脳と腸の相互関係に良い影響を与えることが期待されています。

特に、「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「シンバイオティクス」の概念が、食品による腸内環境改善のキーワードとなっています。

プロバイオティクス(乳酸菌・ビフィズス菌など)

プロバイオティクスは、「適正な量を摂取したときに有用な効果をもたらす生きた微生物」と定義されます。

1989年にイギリスのフラー博士によって提唱され、代表的なものには乳酸菌やビフィズス菌があります。ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品に多く含まれており、これらの食品を摂取することで腸内環境を整える効果があります。

ただし、これらの食品から摂取したプロバイオティクスは腸に定着しないため、継続的な摂取が推奨されています。

従来のヨーグルトに含まれる乳酸菌は消化液によりほとんどが死滅しますが、1930年にヤクルト創始者の代田 稔氏によって発見された「L・カゼイ・シロタ株」など、腸まで生きたまま届く乳酸菌も存在します。
プロバイオティクスには免疫力の向上や内臓脂肪の減少、血中コレステロールの低下、睡眠の質の向上などが期待されています。

また、腸内ビフィズス菌は小児のアレルギー発症に関与するとされています。
順天堂大学の研究9によれば、分娩直前に母体に抗菌薬を投与すると、乳幼児の腸内のビフィズス菌が減少するという結果が発表されました。このことが乳幼児の腸内細菌の異常(dysbiosis)と関連し、小児のアレルギー疾患発症リスクを増加させる可能性があると報告されています。

プレバイオティクス(オリゴ糖・食物繊維など)

プレバイオティクスは、1994年にイギリスの微生物学者ギブソン博士らによって提唱されました。プロバイオティクスが微生物であるのに対し、プレバイオティクスは以下の条件を満たす「食品」を指します。

  1. 消化管上部で加水分解、吸収されない。
  2. 大腸に共生する一種または限定された数の有益な細菌(ビフィズス菌など)の選択的な基質であり、それらの細菌の増殖を促進し、または代謝を活性化する。
  3. 大腸の腸内細菌叢(フローラ)を健康的な構成に都合の良いように改変できる。
  4. 宿主の健康に有益な全身的な効果を誘導する。

公益財団法人 腸内細菌学会ホームページより

プレバイオティクスは善玉菌の成長を促し、整腸効果や食後の血糖値・血中中性脂肪の上昇を抑制するなど、さまざまな効果が期待されています。

代表的なプレバイオティクスとしては、オリゴ糖や食物繊維が挙げられます。
善玉菌は大腸に豊富に存在しており、消化液によって分解されずに大腸まで届くことが理想的です。

消費者庁では、「おなかの調子を整える特定保健用食品」として、さまざまな種類のオリゴ糖が含まれる製品が紹介されています。明治のフラクトオリゴ糖やヤクルト薬品工業、日新製糖のガラクトオリゴ糖などがその一例であり、2011年3月時点で84種類の商品が特定保健用食品として承認されています。

シンバイオティクス

シンバイオティクスは、腸に善玉菌を届けるプロバイオティクスと、善玉菌を育てるプレバイオティクスの両方を組み合わせることを指します。その名前の「シン」には、「一緒に」という意味があります。
例えば、乳酸菌とそのエサとなるオリゴ糖を同時に摂取することで、善玉菌の増加を促し、有害な菌の増殖を抑えるなど、腸内環境を正常化する効果が期待されます。

おすすめの食べ合わせは、乳酸菌が豊富なヨーグルトと、オリゴ糖が豊富なバナナやオリゴ糖シロップなどです。シンバイオティクスの効果を高めることができます。
また、「納豆+ねぎ」、「アボカド+チーズ」、「なめこ+わかめ+味噌汁」など、日常的に取り入れやすい食品の組み合わせも効果的です。

摂取時には、胃酸の影響や加熱による菌の死滅を避けるため、ヨーグルトは食後に摂取する、味噌汁を作る際には火からおろしてから味噌を溶かすなど、工夫することが重要です。これにより、より効果的なシンバイオティクスの摂取が期待されます。

腸内環境を整えるには水分補給も欠かせない!

腸内環境を正常に保つことは、さまざまな病気や疾患を予防する重要な要素です。食品の中でもプレバイオティクスなどの力を借りることが有効ですが、同時に「水」も健康な腸には不可欠です。

1日の水分摂取量が不足すると、便秘などの症状が起こりやすくなり、腸内の状態が悪化します。健康的な便の80%は水分であり、残りの20%は食べ残しや腸内細菌、腸の粘膜からなっています。水分不足だと便が排出しにくくなるため、1日に1.2リットルの水を摂取することが推奨されています。

特に効果的な水分補給方法としては、朝起きたらコップ1杯の水を飲むことが挙げられます。これにより、胃や腸を刺激してぜん動運動を促進し、健康的な排便をサポートします。
昼食や夕食前にも同様にコップ1杯の水を摂取すると、便秘の解消に役立ちます。

脳腸相関を意識して腸活をはじめよう

日々の水分補給や食事、睡眠習慣などは、私たちの腸から脳に影響を与えています。

便秘などの明らかな症状がなくても、腸活を通じてメンタルの健康や認知症予防、肥満予防などの多くのメリットが期待できます。脳腸相関を意識して、日常生活で腸活を取り入れてみましょう。

ただし、体や心の不調がある場合は、自己判断せずに医師や専門家の診察を受け、科学的に根拠のある治療を受けることが大切です。

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参考

  1. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/14.pdf ↩︎
  2. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/31/1/31_23/_pdf ↩︎
  3. https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000admt.html ↩︎
  4. https://www.morinagamilk.co.jp/release/newsentry-2828.html ↩︎
  5. https://www.riken.jp/pr/closeup/2023/20230515_1/index.html ↩︎
  6. https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00003/122200260/ ↩︎
  7. https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000mgp4-att/20221021_PressRelease2.pdf ↩︎
  8. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpdd/22/1/22_2/_pdf/-char/en ↩︎
  9. https://www.juntendo.ac.jp/assets/NewsRelease20180821.pdf ↩︎
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