団地やマンションなどの集合住宅の水質に「貯水槽(受水槽あるいは高架水槽)」と呼ばれるものが関わっていることをご存じでしょうか?
貯水槽は、マンションの屋上や、団地などの敷地内に設置されています。水道局から水道本管を通って給水される生活用水を、いったん貯めておく働きがあるのです。
しかし、マンションによっては、稀にこの貯水タンクの中の水が汚れているケースが存在しているようです。
今回の記事では、私たちの生活に欠かせない「水」の品質を左右する「貯水槽」について詳しく解説していきます。
マンションや大きな建物において水が提供される仕組みや、自身の住まいの給水方法の確認手順など、気になるポイント別でご紹介。
ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
【目次】
マンションの貯水槽(受水槽)は汚い?
「貯水槽」とは、水道管から一時的に水を引き込む「受水槽」や、建物の屋上などに設置される「高置水槽」などの総称です。
マンションや団地など、高さのある建物や戸数の多い集合住宅の場合、道路に埋設されている水道管からそのまま個々の住宅に水を送るのは、非常に困難となります。理由は、水圧不足のためです。
なんの対策もなく、水道管からマンションなどに水を引くと、1階の住宅では水圧が強く、最上階ではほとんど水が出ない、という事態になりかねません。
そこで、1階などに設置されている「受水槽」に貯めておいた水を、ポンプの力を利用して屋上に設置された「高置水槽」に送り出します。そして、水が必要になった時はそこから自然流下させることで、最上階であっても適切な水圧で水が出てくる、という仕組みとなっています。
しかし、マンションに設置されている貯水槽は、外から中の様子を見ることはできないため、中が綺麗なのか、汚れているかの判断がつきません。屋外に設置されていることも多いため、「貯水槽は汚れがひどいのではないか?水質は大丈夫?」と心配する人もいるようです。
しかし、実際には貯水槽が水質に影響するほど汚れていることは滅多にないでしょう。
貯水槽は定期点検やメンテナンスが義務付けられている
水道法施行規則第55条・第56条において、貯水槽(市町村等の水道水のみを水源とし、有効容量が10立方メートルを超える簡易専用水道)の清掃や水質検査は、年1回以上行うことが義務付けられています。これは、マンションのオーナーや管理組合など、貯水槽の設置者に対して義務が科されているものです。
しっかりと衛生管理が整ったマンションであれば、定期的に点検やメンテナンスがされているため、貯水槽が汚れるなどの問題はないでしょう。
多くの場合、メンテナンスが実施される際には共有部分の掲示板などでお知らせがされるため、チェックしてみてください。そういったお知らせが1年以上なく心配な場合は、マンションのオーナーや管理組合などに問い合わせてみましょう。
定期メンテナンスしていても汚れてしまうケース
しかし中には、定期的にメンテナンスをしていても、貯水槽が汚れてしまうケースがあるようです。ここでは、いくつか事例を挙げていきます。
・経年劣化している場合
古いマンションや建物の場合、貯水槽も年月とともに劣化していきます。ひび割れや塗装の剥がれ、水漏れなどが発生し、そこから水が汚れてしまうというケースもあるようです。
しかし、通常であれば点検時に何かしらの対処が取られます。
・清掃の直後
貯水タンクの清掃は、一度中の水をすべて抜き、丸洗いします。もちろん綺麗にはなるのですが、人が手作業で清掃するため、どうしても清掃直後は作業員の落としたものなどの不純物が混ざる可能性が無いとは言い切れません。心配な方は清掃後2、3日様子を見ることをおすすめします。
・いたずらによる汚れ
貯水槽には、必ず人ひとりが入れるくらいの蓋が設置されています。通常は施錠されており、簡単に開けられないようになっていますが、何らかの理由やミスにより蓋が空いてしまっているケースが稀にあるようです。
こういった場合、子どもや、悪意のある大人により、いたずらされる可能性もあります。お住まいの建物の貯水槽が、どのようにセキュリティ管理されているかを確認しておきましょう。
・密閉されていない場合
経年劣化や地震の影響などで、貯水槽自体がしっかりと密閉されていないケースがあります。きちんと密閉されていないと、隙間から埃や砂などが入り込むことも。
このように、貯水槽の設置された建物では、水質が変化してしまう可能性がゼロとは言えません。
そんな中、近年では「直結給水」という方式を採用し、衛生面への影響を考慮する動きがあるようです。
マンションの給水方式は主に2種類
一般的に、マンションの給水方法は大きく2種類に分けられます。ここでは、それぞれの方法や手順と、メリット・デメリットについて解説していきます。
貯水槽水道方式
貯水槽水道方式は、前述の通り「水道管から給水された水を貯めておき、そこから各家庭に給水する」というものです。
その中でも、「高置水槽方式」と「ポンプ圧送方式」の2種類に分けられます。
■高置水槽方式
受水槽に貯めておいた水を、屋上などの高所に設置した高置水槽に送り、自然流下で各住戸に給水するものです。屋上に大きなタンクがある場合は、この方式を採用している建物です。
■ポンプ圧送方式
地上にある貯水層からポンプで各住戸へ給水する方法です。1980年代以降から本格採用された方式で、「屋上に貯水槽を設置しなくて良いため、景観を損ねない」「屋上の貯水槽の重みで建物を傷つけることがない」というメリットがあります。
貯水槽水道方式のメリットとしては、なんといっても「災害時の備蓄になる」という点です。地震などの災害時、水道本管にトラブルが発生し断水になったとしても、マンション内の貯水槽さえ無事であれば1~2日は水に困ることはありません。これらの理由により、病院やホテルなど、断水の影響を強く受ける公共施設などでは、貯水槽水道方式が選ばれることもあります。
一方でデメリットは、やはりメンテナンスの手間や水質への影響が挙げられます。清掃や点検などに費用が掛かる上、それを怠ると建物全体の水質へ影響を及ぼしてしまいます。
年に数回のことではありますが、清掃や点検時の断水の際には、トイレなどが使用できなくなるのも不便です。
それに加えて、貯水タンクやポンプなどの設置スペースが必要というデメリットもあります。
直結給水方式
近年は技術開発も進み、ポンプの性能も飛躍的に向上しています。
そんな中、貯水槽を使わずに、水道管から直接各家庭へ給水する方法が登場しました。これが「直結給水方式」です。
直結給水方式には、「増圧直結方式」と「直圧直結方式」の2種類があります。
■増圧直結方式
水道管から増圧ポンプを利用し、マンションやアパートの各階に水を届ける方式が「増圧直結方式」です。高層階であっても水圧の影響がなく、東京都などの高層マンションが多い都市部では非常に多く採用されている方式です。
増圧ポンプは貯水槽に比べ、非常に省スペースで設置可能なため、建物を有効活用できるという利点もあります。
■直圧直結方式
増圧ポンプを使わず、配水管の圧力で各階の蛇口まで水を送る方法が「直圧直結方式」です。
これまでは、給水可能な階数は3階までと定められていましたが、一定の圧力が確保できる場合は、4階以上の建物へも直圧直結給水が可能となりました。増圧ポンプを使わず、配水管の圧力のみで給水するため、電気使用量を削減でき、省エネルギーな方式であるのも魅力です。
ただし、一気に多量の水を使用する場合や使用水量の変動が大きい施設、建物等では給水本管の水量・水圧が低下し、付近の建物に影響が出るため、設置許可がおりません。
また毒物や劇物及び薬品等の危険な化学物質を取扱い、製造、加工又は貯蔵を行う工場、事業所及び研究所などでも、直結給水方式は使用できないと定められています。
直結給水方式のメリットと言えば、なんといっても配水管から即時に水が提供されるため、「新鮮な水がいつでも飲める」という点です。また、清掃やメンテナンスなどの必要もないため、貯水槽水道方式に比べて費用が圧倒的に削減できるのも大きな魅力と言えるでしょう。
デメリットとしては、直圧直結方式では、低階層の建物でしか利用ができないことが挙げられます。また、増圧直結方式では、電気の力で高圧ポンプを使用するため、停電になると同時に、中高層階では水道も使えなくなってしまう、という事態が発生することもデメリットです。
直結給水方式がおすすめの理由は2つ
以前は高層マンションなどの多い都市部でメジャーだった直結給水方式ですが、近年ではその他の自治体でも、直結給水方式が推奨されています。
一部地域では給水変更の際に必要な工事の一部を、水道局や地方公共団体で負担するところもあります。
なぜ国や自治体は直結給水方式の普及を推薦しているのでしょうか?
ここでは、その理由を解説していきます。
貯水槽の衛生面が危惧されるから
本来、貯水槽水道方式は定期的に適切なメンテナンスと衛生管理が行われていれば安心して利用できる方式です。しかし、全てのマンションにおいて100%適切な貯水槽清掃が行われているとは限りません。
また、単身世帯や共働き世帯の多いマンションでは、マンション全体の水の使用量が少なく、貯水槽に水が滞留してしまうという問題もあります。
貯水槽に水が滞留してしまうと、水道水に含まれる残留塩素の濃度が下がり、消毒効果が失われてしまうため、水質にも大きく影響を与えてしまいます。
水の安全性の確保のためにも、直接水道管から給水する方式に切り替えることを、各自治体が推奨しているというわけです。
直結給水方式を採用できるマンションが増えたから
各自治体や水道局により、増圧直結方式における階数制限や住戸数などの制限はまちまちですが、千葉県では15階建て・140戸程度の大型集合住宅やビルにおいて、直結給水方式を採用することができます。
また、直圧直結方式においても、以前は3階建てまでという制限がかけられており、アパートや戸建てが主な対象でした。しかし、近年では配水管の口径が広く一定の水圧が確保できる場合は、4階以上の建物にも採用できるよう改正されています。
このように、技術の進歩や条件の緩和などにより、「貯水槽水道方式でなければだめだ」という建物は減少しています。費用面やメンテナンスの手間、そして水質への影響を考えると、直結給水方式がおすすめと言えるでしょう。
マンションの給水方式を確認する方法
自身の住んでいるマンションや、これから入居を考えている建物の給水方式を確認したいという方もいるのではないでしょうか。
新築のマンションの多くは直結給水方式を採用していますが、古いマンションであっても、大規模な修繕により給水方式を変更しているケースもあります。
ここでは、給水方式を確認する際のチェックポイントと手順を解説していきます。
直接現地で確認
まずは現地で直接、貯水槽があるかどうかを目視で確認することです。
屋上や1階部分に、貯水槽が設置されていれば、その建物は貯水槽水道方式を採用しています。しかし、貯水槽は建物の中の見えない部分や、地下などに設置されているケースもあるため、全て目視で確認できるわけではありません。
マンションの図面を確認
目視で確認できない場合、マンションの図面を取り寄せて確認してみましょう。図面は、管理会社やマンションの管理組合などで必ず保管されています。
その中に「受水槽」「貯水槽」などの文字があれば、貯水槽水道方式が採用されていると判断できます。
長期修繕計画で確認
図面を取り寄せるには、時間がかかるケースもあります。そのため、早くチェックをしたい!という場合は、長期修繕計画を見てみるのも一手です。
修繕計画の中に、「受水槽」や「高置水槽」の修繕計画が記載されていれば、その建物は受水槽方式です。逆に、「増圧ポンプ」などの記載があれば、直結給水方式であると言えるでしょう。
貯水槽に関するよくある質問
ここでは、よくネット上で調べられている貯水槽に関する疑問へお答えします。
Qマンションの貯水槽の清掃頻度はどれくらいですか?
きちんと管理されているマンションなら、1年に1回以上は清掃されています。
マンションの多くに用いられている、10tを超える容量の貯水槽(簡易専用水道)は、水道法によって1年に1回以上の貯水槽清掃が義務付けられているからです。
これに違反した場合は、100万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、毎年1回以上、厚生労働大臣の登録を受けた簡易専用水道検査機関に依頼して、簡易専用水道の管理について必ず検査を受けなければなりません。
検査機関への依頼を怠った設置者は、保健所または、権限を移譲された市町村の担当部署の指導を受けるばかりでなく、罰則が適用されることもあります。
住居者が安全な水道水を使用するためには、サビやカビの発生、虫の侵入などがないかチェックし清掃することと、異常がないか定期的な水質検査が必要不可欠です。
Q水漏れで高額な水道代を請求されました。対処法はありますか?
お住まいの自治体によっては「減免制度」により、水道代の減額措置が適応されるケースがあります。貯水槽の故障が原因で漏水し、水道料金が増加した場合、適応される可能性があります。
しかし原則は自己責任で、水道料金も使用者へ請求されます。
給水管、止水栓、メータボックス、蛇口などの給水用具は個人の財産であるために、その管理や修繕の責任も個人にあるからです。
ですが、一定の条件を満たしていれば、減免制度が適用される場合があります。
例えば、
・水漏れが水道本管などの見えない部分で発生し、気付くことができなかった場合
・地震や大雨などの災害時に水漏れが発生した場合
・使用者が適切に給水設備を管理していたにも関わらず水漏れした場合
などです。
上記のような条件が揃っている場合は、水道局へ連絡をして修理を行なった上で、減免申請を行ってください。
減免されない場合は以下のようなケースです。
・水漏れしていることを知りながら放置した
・蛇口の締め忘れ
・近隣住人や水道局から水漏れの疑いを指摘されていたのに調査を怠った
・修理完了から90日の申請期限を過ぎてしまった
減免制度の基準は各自治体によって異なるため、一概にどのケースが認められるのか、明確な判断基準がありません。
必要書類の不備や、申請の時期を逃して減免が受けられない、ということにならないように、詳しい減免の要件や手順は、管轄の水道局へ問い合わせください。
まとめ
日本の水道水は、非常に厳しい水質基準が設けられており、安全性が確保されています。しかし、せっかく水道水が安全であっても、住んでいる建物の設備のメンテナンス状況が悪ければ、そのぶん水質も悪くなってしまいます。
正しく管理されていれば、受水槽方式でも水質の心配は要りませんが、各自治体も直結給水方式を推奨しており、今後ますます直結給水方式がメジャーとなっていくでしょう。
今住んでいる場所の水質がどう管理されているのか気になる方や、これから引っ越しを控えている方、投資する物件の水質を確認するための手順が知りたい方は、この記事を参考にしていただければ幸いです。
参考
東京都水道局 | くらしと水道 | 給水方式について(貯水槽水道方式と直結給水方式の違い)
https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/chokketsu/houshiki.html
千葉県 | 直結式について
https://www.pref.chiba.lg.jp/suidou/kyuusui/chokketsu.html