【世界水の日】世界の水不足問題ってなに？私たちにできることとは

国や地域ごとの気候によって、淡水資源の供給量が偏在しているから

世界には、東南アジアのような亜熱帯雨林気候の地域や、エジプトや中東のような、乾燥地帯の地域が存在しています。平均すると地球全体の水資源は豊富であっても、淡水資源の供給量は、各地の気候により大きく異なるのです。
そのため、ある地域では水不足とは無縁であっても、別の地域では深刻な水不足に陥っているというケースがあります。

雨の降る時期によって水の供給量が変化するから

地域だけではなく、時期によっても水の供給量は変化します。
日本でも梅雨の時期には降水量が増え、秋には乾燥した気候になることが多いです。同様に、1年のある時期は降水量が多い地域でも、別の時期には全く雨が降らないなど、季節により水の供給量は目まぐるしく変化します。
そのため、一時的な水不足に陥ってしまうケースは世界各地で発生しています。

工業用水などによって、地域での使用量が供給量を超えてしまうから

生活用水に用いる淡水資源が十分にある地域でも、水不足に陥ることがあります。その要因の一つが、農業用水や工業用水です。
作物や畜産物、そして工業用品を生産する過程では、生活用水以上に大量の水が必要となります。そのため農業地帯、工業地帯などでは、水不足に陥ってしまうケースがあるのです。

急激な都市開発による人口増加

近年、日本だけでなくアジア各国などで、急激な都市開発における、人口の一極集中化が進んでいます。一つの場所に人口が集中すると、その地域の水資源の使用量が、供給量を上回ってしまうという事態が発生するのです。
淡水は基本的に「循環できる資源」です。しかし、循環するには一定の時間がかかるため、急速な使用量の増加は、水資源の枯渇を引き起こします。
さらに、人口密度が高い地域から発生する下水などの排水の影響で、周辺の水環境の悪化の進行が懸念されます。

人口増加による食料の大量生産

人口の増加により、食料となる穀物の需要が増加します。さらには飼料用穀物などの消費量増加により、農業用水に用いられる水資源が大幅に増えていくことになります。
こうした農業用水は、生活用水のおよそ7倍以上の水が使われており、水不足の深刻さに拍車をかけることとなります。

暮らしが脅かされることによる水紛争

水不足は、人々の生死に直結する問題です。そのため、水不足の問題を抱えている国や地域では、水の所有権などを巡って紛争に発展することがあります。
例えば中東のイラクでは、干ばつで国土の6割が乾燥し、およそ700万人の生活に影響が出ています。
水不足が深刻化した地域では、農業用水などを巡って部族同士の対立が起き、武装した人々による銃撃戦に発展しました。
こうした水紛争の際には、井戸や浄水場などの水源が狙われることも少なくありません。そのため、水紛争によってさらに水不足が深刻化してしまうという悪循環も発生してしまうのです。

清潔で安全な水を入手できないことによる病気の蔓延と、死亡率の上昇

人が生きていくためには、清潔で安全な淡水が欠かせません。しかし、水不足が進行すると、こうした水資源を入手するのは非常に困難となります。
そんな状況下で、泥や砂、家畜の糞尿などの不純物が混ざった水しか飲むことが出来ず、下痢や寄生虫による病気、慢性的な結膜炎などを発症してしまうのです。
アフリカのマリ共和国では、5歳以下の子どもの4.6人に1人が亡くなっていますが、これは清潔な水へのアクセスが難しいからという背景があります。

水汲みの労働による子どもや女性への弊害

世界では、2015年時点で6億6,300万人もの人が安心して水を飲める環境にありません。
その半数近くはサハラ以南のアフリカ諸国の人々に集中しており、彼らは池や川、湖、整備されていない井戸などから水を汲んでいます。
水汲みは子どもや女性の仕事とされているケースが多く、本来学校に通うべき子どもが、一日中水汲みをしているという実態があります。

・子どもへの教育機会の損失

稼いだり家事が出来ない子どもは、水汲みを任される傾向にあります。
しかし水汲み労働は、子どもの健康を危険にさらし、教育機会を損失させるなど、様々な弊害を生んでいます。
多くの途上国で、水汲みは子どもたちの仕事とされており、330万人を超える子どもたちが、毎日重い水を運ぶために長い道のりを歩き続けています。
中には、1日に8時間以上を水汲みに費やしている子どももおり、真夏の炎天下であっても毎日行わなければなりません。それは体力的に過酷で、健康を害する危険を伴います。
水汲み労働は、子どもが学校に行くための体力と時間を奪ってしまうのです。こうして長期的に教育を受けられないことが、貧困の連鎖にもつながっていきます。

・女性の社会進出機会の損失

水汲みは多くの場合、女性が任される傾向にあります。
固定的な性別役割のルールによって、世帯主である男性が外へ稼ぎにいき、女性が家事育児など家の中の労働を割り当てられる場合が多く、家庭用水の確保と管理も女性が担っているという実情があるのです。
WHOとユニセフによれば、2017年、家の敷地内に水道がない世帯の８割は、女性や女児が水汲み労働を担っていたといいます。
英国NGOのWaterAidの調査では、全世界で女性や女児が水汲みに費やす時間の総計は１日に２億時間以上と推計されています。
ユニセフによると、5歳〜14歳までの女児は、水汲みを含む無性の家事労働に、同年代の男子より40%多くの時間を費やしています。
水汲みに多くの時間を奪われることで、女児の就学や女性が働きに出ることを制限され、社会進出機会の損失につながっています。

発展途上国ならびに先進国での作物不足

水不足は、農業用水の不足にも直結します。
こうした問題は、水道の整備されていない発展途上国だけでなく、先進国でも見られる問題です。
例えば、アメリカでは灌漑（かんがい）農業によって作物の大量生産を行うことが一般的です。その際の水は地下水に依存しているケースも多く、水不足や干ばつなどで地下水の供給量が減ってしまうと、そのまま作物の不足に繋がります。
また、大量生産される作物には、トウモロコシなど家畜のエサとして用いられるものも多いため、作物が不作になると食肉や畜産物の生産にも大きく影響します。

世界の異常気象による日本への輸入量の減少や、販売価格の高騰

日本の産業や生活に必要なものの多くは、海外からの輸入に大きく依存しています。
そのため、海外の水不足や作物の不作は、そのまま日本の輸入量の減少や、輸入品の価格高騰を引き起こし、日本の物価や流通にも大きな影響を及ぼします。
農産物やその加工品、工業用品などを輸入して国内で消費することは、間接的に海外の水資源を利用していることに繋がっているのです。

世界の取り組み

水不足をはじめとした水資源問題について、多くの国際的機関が改善に向けて働きかけています。
ここでは、代表的な団体や計画をピックアップし、それぞれの取り組みを紹介していきます。

・ 国連世界水アセスメント計画(WWAP)

2008年8月に、日本が主導となって設立された国連教育科学文化機関（UNESCO）が率いる国際プログラムです。現在では国連システムにおける水に関する取り組みの中心として、先進国・発展途上国の双方から高い評価を受けています。

・世界水フォーラム

世界水フォーラム(World Water Forum)は、1996年に世界各国の政府、国際機関、学識者、企業・NGOにより設立された研究機関です。
3年に1度開催される「世界水フォーラム」では、関係者が地球規模で深刻化する水問題に対し、情報提供や政策提言を行っています。

・ユニセフ

ユニセフは、世界190以上の国と地域で、子どもたちの命と健康、権利を守るために活動している国連機関です。
水問題に関しては、2030年までにすべての人の安価かつ安全な飲料水への平等なアクセスを目標に掲げています。井戸や給水設備を新たにつくったり、トイレの設置や学校教育による手洗いなどの習慣化を広めています。

・ウォーターエイド

ウォーターエイドは、1981年にイギリスで設立された「水・衛生専門の国際NGO」です。
「すべての人々がすべての場所で、清潔な水とトイレを利用し、衛生習慣を実践できる世界」をビジョンに掲げ、主に開発途上国で清潔な水・トイレを利用できるようにするための支援を行っている団体です。

日本の取り組み

ここでは、主に技術面で大きな強みを持つ、日本の水問題への取り組みをご紹介します。

・海水淡水化技術の導入

海水淡水化とは、その名の通り海水を処理して淡水を作り出すことです。
淡水源（湖、河川など）がない地域であっても、海が近い地域であれば海水を淡水として処理し、飲料用水や農業用水として使用できます。
海水淡水化技術には「蒸発法」「逆浸透法」がありますが、エネルギー効率の良さから「逆浸透法」が主流となっています。
日本の企業が、この技術を用いてインドネシアやパプアニューギニアなどの国で、装置の設計にも携わっています。国内だけでなく、国際的にも広く活用されている取り組みです。

・治水の技術の導入

日本には古くから治水の文化があり、戦後のダム建設など、その技術力は世界に誇れるものと言えます。
そうした背景を受け、日本の各企業では、ケニアやインドネシアといった海外における水資源の開発・管理プロジェクトを実施しています。
世界各国の水資源・河川分野の問題解決に向けて、総合的な技術サービスを提供し、日本の技術を広く世界に伝えています。

・水道分野の専門家を海外へ派遣

日本の政府開発援助（ODA）の実施機関である国際協力機構（JICA）では、厚生労働省への依頼を通じて、地方自治体・水道局・民間企業などから水道分野のスペシャリストを選出しています。
選ばれた人材はアドバイザーとして、発展途上国へ毎年25～50名程度が派遣され、各地域の水道事情に合わせて、井戸・トイレの建設、上水政策、水道事業、水道行政管理など広く指導を行っています。

・海外からの研修生の受け入れ

JICAでは、発展途上国から年間約7000人の研究員の受け入れを行い、各地で水問題の解決に向けた研修を実施しています。前述の技術者の海外派遣と合わせ、技術協力の要となっています。

・“統合的水資源管理”の実践と、組織の調整能力の強化

「統合的水資源管理」とは、自然環境や生態系に影響を与えることなく、水による社会的・経済的な恩恵を最大限に享受できるように水資源を管理する方法の総称です。
JICAでは発展途上国に向け、「統合的水資源管理」の徹底を促進し、水資源庁や農業省といった組織の調整能力の強化を図っています。
それにより、生態系への持続可能性を確保しながら、安全な水へのアクセスを最大化させているのです。

技術の開発

各国が水不足問題解消のためにさまざまな取り組みを進める中、新たな技術の開発も進んでいます。
ここでは、代表的な技術について詳しく紹介していきます。

・海水淡水化

海水淡水化とは、海水から塩分を取り出して淡水にする技術です。
海洋国日本はもちろん、中国などでも開発が進んでいる技術で、海沿いの地域をはじめ、わずかに塩分を含む汽水にも用いられています。淡水にした後の水は、飲料用や農業用・工業用水として使用することができます。
しかし一方で、処理後に発生する排水「ブライン」に関しての処理問題が懸念されています。
ブラインは、そのまま排出すると周辺の塩分濃度が上昇し、海中の酸素濃度が低下する恐れがあり、生態系へ影響を及ぼすとされています。
本格的な実用化に向けては、ブラインの処理問題を解決する必要があり、普及の妨げとなっているのが実情です。

人工降雨

人工降雨とは、その名の通り人工的に雨を降らせる技術です。
こう聞くと、「何もないところから雨雲をつくる」ように思われるかもしれませんが、実際には「すでにある雨雲を活性化させ、狙った場所で雨を降らせる」というものです。
中国やロシアでは、既に水不足や干ばつの対策技術として実用化が進んでいます。日本でも2008年にダムの上空で雨を降らせる実験が行われ、実用化に向けて研究が進んでいます。
人工降雨は、「無から有を生み出す」わけではなく、「雨雲を発達させる」技術です。言い換えれば「どこかで降るはずだった雨を奪う」とも言えるでしょう。
このまま世界的に実用化が進むと、周辺国の降水量の減少などに繋がる恐れがあり、実際に与える影響についての調査が待たれています。

生活を工夫して節水を心がける

料理、食器洗い、洗濯、お風呂、トイレ、歯磨きなど、私たちは生活のあらゆるところで水を使用しています。その水の使用量を最低限に抑える工夫をすることで、日々の暮らしの中で節水することができます。

例えば、

• ・蛇口をこまめに止める
• ・洗濯はすすぎを一回にする
• ・お風呂の残り湯で洗濯する
• ・トイレは「小」で流す
• ・食器は水を溜めて洗う
• ・洗車はバケツ洗いにする
• ・お米の研ぎ汁は植木に撒く

など、様々な場面で節水できるチャンスがありますので、ぜひ試してみてください。

生活排水を減らして水源を守る

実は、川を汚す原因として７割を占めているのが、家庭から出る生活排水です。
毎日の生活で生活排水を減らすためにできる対策としては、

• ・シャンプーやリンス、洗剤をむやみに使いすぎない
• ・分解性が高く、環境にやさしい洗剤に買い替える
• ・食器や鍋の油や醤油を新聞紙などで吸い取ってから洗う
• ・キッチンの三角コーナーで水切りネットを使用し、調理くずや食べ残しを流さないようにする

などがあります。
家庭でのちょっとした工夫で排水を減らすことができるので、今日から実践してみませんか？