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私たちの身の回りには、塗料やプラスチック製品、薬品など、さまざまな化学物質から作られたものが溢れています。しかし、こうした製品の中には用量や使い方を誤ると、人体や生態系などに大きな影響を及ぼすものも存在しています。
そのため、あらゆる化学物質には法律や条例で使用が制限、または禁止されているのです。
近年注目を集めているのは、PFAS(ピーファス)という人工化学物質群で、中でも特にPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)と呼ばれる有機フッ素化合物が問題になっています。
この記事では、「第二のダイオキシン問題」とも呼ばれるPFOS、PFOAをはじめとしたPFASの性質や人体への影響など、気になるポイントをご紹介していきます。
【目次】
- 有機フッ素化合物 PFOS・PFOAとは?PFASとの違い
- PFOSとは
PFOAとは - 有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)による人体への影響は?
- 有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)が日本でも使用禁止に?
- 製造・輸入が原則禁止に
日本の水道水に関する規制について - 有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)をめぐる動きを年代ごとに解説
- 1947年に3M社(米国)が開発したPFOAが、産業上最初に利用されたPFAS
1980年代に入ると人体への影響が懸念されるように
2006年米国環境保護局が「PFOA削減管理プログラム」を立ち上げ
2009年「ストックホルム条約」(POPs条約)にてPFOSが規制対象に
2009年国内で「水道水に係る要検討項目」にPFOS・PFOAが追加
2010年国内でPFOSの製造・使用・輸出入が原則禁止
2019年「ストックホルム条約」(POPs条約)にてPFOAが規制対象に
2020年厚生労働省がPFOS・PFOAを「水質管理目標設定項目」に
2021年国内でPFOAが第一種特定化学物質に指定へ
2021年国内でPFHxSが「要検討項目」に - 有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)に関するこれからの課題
有機フッ素化合物 PFOS・PFOAとは?PFASとの違い

PFAS(ピーファス)とは、PFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)、PFHxS(ピーエフヘクスエス)、GenX(ジェンエックス)など多くの化学物質を含む人工化学物質群のことです。正式名称は「ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物」といいます。
現在、4700種類以上存在しているPFASは、自然に分解されることが極めて難しいため、「永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)」とも呼ばれています。
PFASには油や水をはじく性質があり、熱や薬品、紫外線にも強く、私たちの身近なところではフライパンや業務用の洗剤などに使われてきました。
しかし近年は、PFASの有害性と、生物への蓄積性が大きな問題となっています。
さまざまな種類があるPFASの中でも、最も多く使用されてきたのが「PFOS(ピーフォス)」と「PFOA(ピーフォア)」という2つの化学物質です。
ここでは、それぞれの特徴について解説していきます。
PFOSとは
PFOSは、正式名称を「ペルフルオロオクタンスルホン酸」といいます。
1940年代にアメリカで開発された界面活性剤で、優れた撥水性、撥油性を持ち、主に半導体製造や金属メッキの薬剤、泡消火剤、殺蟻剤など、幅広い分野で使用されてきました。
化学的に非常に安定している物質のため、環境中に残留しやすい性質や、長距離移動性などが認められています。これまでにない環境汚染物質として、今高い注目を集めています。
PFOAとは
PFOAは、正式名称を「ペルフルオロオクタン酸」といいます。
PFOSと同様に、水も油もはじく特異な性質があり、科学的な安定性の高さが特徴として挙げられます。主な用途として、泡消火薬剤、繊維、電子基板、自動車、食品包装紙、石材、フローリング、皮革、防護服などがありますが、平成29年度においてはすべての事業者が製造を停止しています。
有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)による人体への影響は?

PFOSまたはPFOAが体内に蓄積すると、がんの発症や、胎児への発達異常を引き起こすおそれがあるとされています。
さらに、血中のPFOA濃度が高い人は、低い人に比べて腎臓がん、潰瘍性大腸炎に加え、精巣がん、甲状腺疾患、高コレスレロール、妊娠性高血圧などの発病リスクが上昇していることも判明しました。
2022年、アメリカの疾病対策センターなどはPFOS、PFOAが下記4項目で人体に悪影響を及ぼす十分な根拠があると発表しています。
・免疫力低下
・脂質代謝異常
・胎児や子どもの発育障害
・腎がん
こうした健康への影響を懸念し、米国の環境保護庁では2022年6月、水道1リットルあたりのPFOS、PFOAの含有量の新たな基準を発表しました。
・PFOS…0.02ナノグラム以下
・PFOA…0.004ナノグラム以下
このように、欧米ではPFOS、PFOAに対する規制の動きが強まっていることがわかります。
有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)が日本でも使用禁止に?

PFASの毒性が明らかになったのは、ここ十数年のことです。そのため、アメリカやドイツといった諸国では、PFASの中の個別物質ごとではなく、PFAS全体を規定する動きが進んでいます。
しかしながら、日本でのPFAS規制は、海外に比べて遅れているのが現状です。
ここでは実際のPFASの日本における規制状況について、詳しく解説していきます。
製造・輸入が原則禁止に
PFASのような残留性有機汚染物質から、人の健康や環境を守るため、世界的に定められた条約をストックホルム条約(POPs条約)と言います。
PFOSは2009年5月にPOPs条約で「製造・使用・輸出入」が制限され、特定の用途以外での使用が禁止となりました。
これを受けて、国内でも化学物質の審査および製造などの規制に関する法律(化審法)に基づいて、第一種特定化学物質に指定され、PFOSの製造・使用・輸入が原則禁止となりました。
この時点では、エッチング剤の製造や、半導体用のレジストの製造、および業務用写真フィルムなど、例外的用途での使用が認められていました。しかし、その後2017年の化審法改正により、例外的用途の廃止が決定され、PFOSはすべての用途で製造・使用が禁止されました。
同様に、PFOAは2019年5月のPOPs条約において「製造・使用・輸出入」が禁止となり、国内でも2021年10月から化審法の第一種特定化学物質として指定されました。
このように、日本でのPFAS規制は世界に比べ、一歩遅れての対応になっていることがわかります。
日本の水道水に関する規制について
厚生労働省は、2020年4月にPFOS、PFOAを「水質基準の要検討項目」から「水質管理目標設定項目」として位置づけました。
同時に、暫定目標値としてPFOSおよびPFOAの合算値として「1リットルあたり50ナノグラム」という数値を設定しました。
また、飲料水の中に含まれるPFASに関しては、以前から自治体や国で計画的に調査が行われています。
地下水をそのまま、あるいは一部水道水を混ぜたものを使用している東京都の多摩地区では、2020年4月より3カ月に1度、原水や浄水・給水栓(蛇口)水の検査を実施しています。
そして、2020年7月の東京都の調査では、多摩地域の浄水場の一部の原水、浄水、給水栓水で、「1リットルあたり50ナノグラム」という目標数値を超える成分が検出され、井戸の汲み上げを停止する事態となりました。
また、環境省は2019年、PFOSとPFOAの排出源となる全国の泡消火剤の在庫施設や化学メーカーなどの周辺の河川や地下水で、調査を行いました。その結果、PFOSとPFOAの濃度は東京、神奈川、大阪、兵庫、愛知、福岡、沖縄など13都府県で暫定目標値を超えたという結果が出ています。
有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)をめぐる動きを年代ごとに解説

PFASの毒性が判明し、その後は世界中で目まぐるしく規制や管理が行われてきました。
ここでは、PFASをめぐる世界と日本の動きを、時系列でご紹介します。
PFASの毒性が発覚した経緯や、国や企業がどのように動いてきたのか、どう対応しようとしているのかを見ていきましょう。
1947年に3M社(米国)が開発したPFOAが、産業上最初に利用されたPFAS
産業上、初めて利用されたPFASはアメリカの「3M社」が1947年に開発したPFOAです。
開発のキッカケは、同国の「デュポン社」が1938年に開発したテフロンの加工特性を改善するためとされており、これによってテフロンが世界的に普及することとなりました。
また、「3M社」は1953年にはPFOSの撥水性・撥油性を活かした製品を開発しています。
こうしてPFASが世の中に広まっていきましたが、米国の環境保護団体「環境ワーキンググループ」の調査では、3M社が1960年代にはPFASに毒性があるかもしれないとの認識を持っていたと公表されています。また、70年代にはPFOSとPFOAの有毒性を確認し、PFASが人体の血液中に蓄積する可能性があるという認識を持っていました。
デュポン社も同様に、1960年代には、PFASによって肝臓を肥大化させる可能性があることを知っていました。両社ともにこうした認識があったにも関わらず、これらの情報を世間に公表せず、長年隠し続けていたのです。
1980年代に入ると人体への影響が懸念されるように
1979年にデュポン社が、テフロン工場の従業員を対象にした調査で、PFOAの曝露による肝機能障害あるいは心筋梗塞の可能性が示唆されました。
その他、1981年には3M社でラットを使った試験が行われ、PFOAが胎児の目に先天性欠損症を引き起こす可能性が浮き彫りになってきたため、出産の可能性のある女性従業員をPFOA曝露のない部署へと移しました。
この情報を受け、デュポン社がテフロン工場の妊娠している従業員の子どもを調査した結果、7人中2人の子どもに目の先天性欠損症が見られました。
さらに、1980年代から90年代にかけて、両社で従業員のがん発生率の上昇が確認されましたが、世間に公表されることはありませんでした。
世間がPFASの有毒性を知るキッカケとなったのが、1999年の牧場主による訴訟です。
デュポン社は、1980年初頭に購入した土地へ、PFOAを含む汚泥を7100トンに渡って廃棄し、この土地に流れる小川の下流の牧場で、牛が死亡するという事態が起こりました。
一人の牧場主から始まった訴訟は、やがてウェストバージニア州とオハイオ州の住人たちによって健康被害を訴える集団訴訟へと発展し、デュポン社は2017年2月に合計6億7070万ドル(およそ765億円)で和解に応じました。
2004年には、デュポン社がPFOAの毒性試験の結果を公表していないとする環境保護団体EWGの請願が発端となり、米国環境保護局(EPA)が、連邦環境法違反でデュポン社を訴えました。制裁金1,025万ドル(11億円)と、環境保全のプロジェクト資金625万ドル(6億7,500万円)を支払うことで2005年に和解しています。
一方、2000年に3M社から突如PFOA、PFOSの製造を中止する方針が発表されました。EPAは、有毒物質規制法に基づく報告義務違反によって、2006年3M社に150万ドル(1億6200万円)の罰金を科しました。
2006年米国環境保護局が「PFOA削減管理プログラム」を立ち上げ
EPAは、PFOAの全廃に向けて動き出しました。
2006年(平成18年)1月、EPAは有毒物質規制法により「PFOA削減管理プログラム」を立ち上げ、PFAS業界の主要企業8社に参加を促し、PFOA、PFOAの前駆物質などについて、以下の目標を掲げたのです。
・工場から閑居中への排出量と、製品中の含有量を2010年までに95%削減(対2000年比)
・2015年(平成27年)までに全廃する努力をする
2006年3月までに、主要企業のうち全8社が、自主的に取り組むことへ合意しました。
2009年「ストックホルム条約」(POPs条約)にてPFOSが規制対象に
米国での動きを受け、国際的な枠組みである「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」でもPFOSについて規制が検討されることになりました。
残留性有機汚染物質(毒性が強く、難分解性、生物蓄積性、長距離移動性、人の健康又は環境への悪影響を有する化学物質)を「Persistent Organic Pollutants;POPs」と呼び、POPsの製造及び使用の廃絶・制限、排出の削減やこれらを含む廃棄物等の適正処理等の規定を目的として2004年5月に「POPs条約」が締結されました。
製造や使用、輸出入を禁止する化学物質は附属書A、製造や使用、輸出入を制限するものは附属書Bにリストされ、PFOSに関しては、2009年5月に附属書Bへの追加掲載が決定しました。
2009年国内で「水道水に係る要検討項目」にPFOS・PFOAが追加
2009年4月、「水道水に係る要検討項目」にPFOS、PFOA、および「N-ニトロソジメチルアミン(MDMA)」「過塩素酸」の4項目が追加されました。しかし、この時点では具体的な目標値の設定は見送られることとなりました。
PFOS、PFOAの長期毒性の疑いはあるものの、WHOでは明確な基準が提示されていないことを理由の一つとしています。
2010年国内でPFOSの製造・使用・輸出入が原則禁止
その翌年、国内では「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」が改正され、「PFOS及びその塩」を含む12物質が第一種特定化学物質(原則として製造・輸入が禁止)に指定されました。
この12物質のうち「PFOS 及びその塩」を始めとした3物質が含まれる14製品は輸入を禁止されました。
2019年「ストックホルム条約」(POPs条約)にてPFOAが規制対象に
PFOSから遅れること約10年、2019年4~5月のPOPs条約の締約国会議において、「ジコホル」とともに「PFOAとその塩及びPFOA関連物質」も附属書Aへ追加されることが決定されます。これらの物質の製造・使用等の廃絶に向けて、国際的に協力して取り組んで行くことになりました。
2020年厚生労働省がPFOS・PFOAを「水質管理目標設定項目」に
2020年4月、PFOS、PFOAは「要検討項目」から「水質管理目標設定項目」へと改定され、暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で50ng/L(ng/Lは、水1リットルあたり10億分の1グラムの物質が溶解していることを表す)と設定されました。
また、2021年4月に、PFASのひとつであるPFHxSが「要検討項目」に位置づけられましたが、目標値は設定されませんでした。
この流れのきっかけとなったひとつが沖縄県からの要請です。
2016年1月、沖縄県の嘉手納飛行場周辺の河川や普天間飛行場周辺の湧水などから、高濃度のPFOSが検出されたことをきっかけに、水道水質基準値などの設定を強く求めていました。
水質管理目標設定項目とは…水道事業者等において、水質基準に係る検査に準じて体系的・組織的な監視によりその検出状況を把握し、水道水質管理上留意すべき項目
暫定目標値とは…ヒトが70年間毎日2L飲用しても問題ないとされる値
2021年国内でPFOAが第一種特定化学物質に指定へ
2021年4月21日、化審法の改正が行われ、「PFOA又はその塩」が第一種特定化学物質に指定されました。
これにより、PFOSに続きPFOAも、物質の製造・使用・輸入が原則禁止となったのです。
「PFOA又はその塩」が含有される製品として、耐水性能や、耐油性能を与えるために処理した紙や生地、塗料や反射防止剤など、さまざまなものが輸入禁止になっています。
2021年国内でPFHxSが「要検討項目」に
有機フッ素化合物「PFHxS」は、PFOS及びPFOAと同様の性質を持っています。そのため、PFOS、PFOAの規制後は、代替品として用いられてきました。
しかし2021年4月、PFHxSが「要検討項目」として位置づけられました。目標値は設定されていませんが、PFHxSに関しても定期的に検査を行い、各水道局などのホームページで検査結果が発表されることになっています。
有機フッ素化合物(PFOS・PFOA)に関するこれからの課題

2022年には、沖縄県普天間飛行場周辺区域にて、米国基準値の29倍近い基準のPFOSが検出されました。また、東京都多摩地区で2022年に行われた調査によると、PFOS、PFOAの血液1リットルあたりに含まれる量は、全国平均の約3.7倍という結果も出ています。
これらは、いずれも米軍基地が近隣にある地域であり、基地内で使用された泡消火剤などの影響と考えられています。
PFASは1990年代に環境汚染や人体への影響などの問題が認識されはじめ、世界中で規制が進んできました。ただし、水道水や血中のPFASの濃度など、健康被害のリスクが発生する基準はまだ定められておらず、国によっても基準は大きく異なります。
日本の行政における規制は、欧米の規制に比べ、ほとんど手つかずと言っていい状態です。また、汚染源からの広がり方やその期間、現状汚染されている地域や汚染の度合いなども、はっきりとしていません。
今後も国が本格的な調査を進めるとともに、正しい理解を得るための情報発信をしっかりと行っていくことが課題と言えるでしょう。