
日本全国のさまざまな土地に湧水が存在しています。ありのままの自然が育んだ湧水に魅力を感じる人は多いのではないでしょうか。登山やキャンプに出かけた際、美しい渓流のそばでこんこんと湧き出る水を見かけると、思わず一口飲んでみたくなるものですよね。
「市販のミネラルウォーターより、自然そのままの水のほうが体に良いのでは?」と考える人もいれば、あるいは「そのまま飲んでも大丈夫?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
この記事では、湧水をそのまま飲んでも問題はないのか、湧水を安全に楽しむ方法を紹介します。
湧水はそのまま飲める?

まずは、湧水とはどのような水なのか、湧水をそのまま飲んでも大丈夫なのかを解説します。
湧水の定義
湧水とは、山や森林に降った雨や雪が長い年月をかけて地層を通り、自然にろ過されて地下水となった後に、地表に流れ出てきた水のことです。日本のあちこちには、環境省が認定した「名水百選」に選ばれるような、透明度が高くきれいな湧水のスポットが数多く存在します。
湧水の水質は水源となる地層や環境によってさまざまです。湧水がある場所により、ミネラル含有量や構成成分が異なるため、水質の特徴も変わってきます。場所によって水の味や風味が違う点も、湧水の魅力と言えるでしょう。
湧水をそのまま飲むのは必ずしも安全とは言えない
「自然そのまま」の湧水は、一見すると安全で体に良さそうに思えます。しかし、実際には殺菌や消毒の処理が一切施されていないため、湧水の状態や飲む人の体調によっては、そのまま口にすると体調を崩すリスクがあります。
たとえば、湧き出た場所やその周辺の環境によっては、大腸菌が含まれている可能性があります。大腸菌に感染すると、激しい腹痛や下痢、発熱などの食中毒症状を引き起こすことがあります。
また、危険なのがエキノコックス症です。エキノコックス症は、キツネなどの動物のフンに混じって排出される寄生虫の卵が人の体内に入ることで感染する病気です。キツネに直接触れた拍子に卵が口に入って感染することが多いのですが、まれに卵で汚染された湧水が感染ルートになるケースもあります。エキノコックス症に感染すると自覚症状がないまま病気が進行し、肝機能障害などを引き起こすおそれがあります。
湧水のある場所に家畜の飼育施設が近い場合は、家畜の排泄物などによって硝酸性窒素や亜硝酸性窒素の濃度が高くなっていることもあります。硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を摂取すると、メトヘモグロビン血症(酸素欠乏症)を引き起こす危険性があります。
こうしたリスクから湧き水を飲むことは健康な大人でも注意が必要ですが、免疫力の低い赤ちゃんや高齢者は、特にリスクが高いと言えるでしょう。
湧水の安全性を確認する方法

では、どうすれば湧水を安全に楽しむことができるのでしょうか。湧水の安全性を把握するには、水質検査結果を確認する方法があります。自治体によっては湧水スポットについて定期的な水質検査を実施し、その結果をインターネットで公開しています。
もし前もって調べられる状況なら、飲みたいと思っている湧水が公的な水質検査の対象となっているかどうかを確認してみましょう。もし検査結果が公開されていて、「上記項目について水質基準に適合」と記載があれば、安全性が高いと言えます。
ただし、注意しておきたいのは、これはあくまで「検査時点」での情報であるということです。天候や周辺環境の変化によって、地下水の水質は常に変動する可能性があります。たとえば、「名水百選」に選ばれた場所の湧水から大腸菌が検出されたというケースも報告されています。そして、場所によっては検査結果が公表されていない湧水もあります。
いずれにせよ、湧水を飲む場合はあくまで自己責任になることを理解しておきましょう。湧水をより安心して飲むための方法は、後ほど説明します。
湧水と他の水との違い

普段口にしている水と湧水はどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、水道水や市販の水、浄水器の水との違いについて紹介します。
水道水との違い
水道水と湧水との主な違いは、殺菌や消毒が施されているかどうかです。
私たちは普段、浄水場で殺菌・消毒が施され、国の厳格な水質基準をクリアした水道水を飲んでいます。浄水場で殺菌・消毒が施される過程で塩素が添加されているため、大腸菌などの病原菌は死滅しており、安心して飲むことができます。しかし、この塩素での処理が、水道水特有のにおいや風味を生じさせる原因にもなっています。
市販の水との違い
私たちがスーパーなどで手にする「ミネラルウォーター」や「天然水」といった市販の水は、安全性を確保するために徹底した品質管理のもと、殺菌処理が施されています。
特定の水源から採水された後、食品衛生法に則った殺菌処理が行われ、安全な状態でボトルに詰められるのが一般的です。市販の水は、メーカーが厳格な基準で管理し、安全性が確保され、お店で売られているのです。
浄水器の水との違い
浄水器には、水道水をろ過したり、ミネラル分を追加したりする役割があります。浄水器の水は水道水と同じように、殺菌や消毒が施されています。
しかし、浄水器を通した水と湧水には、自然な味わいでおいしさを楽しめるという共通点があります。浄水器は、水道水に含まれる不純物や塩素、カルキ臭を取り除き、よりまろやかで安全な水にしてくれます。浄水器に水を通す際、体に良いとされるミネラル分は保持されたり、追加されたりすることが多いです。
水道水が持つ安全性を活かしながら、不純物を除去し、おいしさを味わえ、ミネラルなどの栄養素を摂取できる点が、浄水器の利点と言えるでしょう。
湧水の安全性を高める方法

「やっぱり湧水を味わいたい!」という方は、安全性を高めたうえで楽しむようにしましょう。ここでは、湧水の安全性を向上させる方法を紹介します。
煮沸する
湧水は飲む前に5分から10分程度沸騰させましょう。火にかけることで、大腸菌や寄生虫の多くを死滅させられます。ただし、煮沸によって除去できない化学物質や重金属、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素もある点には注意が必要です。
浄水器を使う
アウトドアシーンで湧水を利用したい場合に便利なのが、持ち運び可能な携帯浄水器です。アウトドア用品店などで入手できます。
携帯浄水器には、高性能なフィルターが備わっていて、湧水を容器に入れるだけで害のある物質を物理的にろ過できます。ボトルタイプやストロータイプ、ポンプタイプなど幅広い種類があるのも特徴です。
もちろん、すべての物質をろ過できる浄水器はありませんが、細菌や寄生虫などを取り除くには有効と言えるでしょう。
市販の湧水を購入する
手軽で安全に湧水を楽しむ方法には、市販されている湧水を購入する方法があります。
市販の「湧水」と表示された飲料は、国が定めた食品衛生法の安全基準をクリアするために殺菌・消毒の処理が施されています。水源は自然の湧水でも、製造過程で衛生管理が徹底されているため、安心して飲むことができます。
湧水の安全性を正しく理解して自然の恵みを楽しもう

この記事では、湧水をそのまま飲むことの危険性や、安全性を確認・向上させるための具体的な方法について解説しました。自然のままの湧水は魅力的ですが、それゆえ健康に影響を及ぼすリスクもあります。健康を守るためには、リスクを理解し、適切な対策を講じることが大切です。
長い年月をかけて地層でろ過された湧水には、豊富なミネラルを含んだ、まろやかで自然な味わいという魅力があります。もし近くに湧水スポットがあるのなら、煮沸や携帯浄水器を利用して自然の恵みをぜひ味わってみてください。




