日本の水道水は、世界でもトップクラスの品質の良さを誇ります。実際、蛇口をひねって出てきた水をそのまま飲める国は、世界196カ国でも9カ国程度しかないとされているのです。
国土の多くを山林が占め、「豊かな水資源」に恵まれた日本では、非常に厳しい水質基準が設けられています。しかし、2022年4月1日、厚生労働省が定める「水質管理目標設定項目」の農薬類の目標値が規制緩和されました。
このことを受け、「安心して水が飲めなくなってしまうのではないか」、「水道水に農薬が混入されてしまうのでは?」など、インターネット上ではさまざまな憶測が飛び交っているようです。
結論から言ってしまうと、これらの憶測はデマであり、きちんと規制緩和の背景を知れば、納得できるものだと思います。
今回の記事では、水道水の農薬類の目標値の規制緩和について、制度の概要をはじめ、正しい知識を解説していきます。私たちの生活に直結する「水」の品質が、どのように取り締まられているかどうかを理解し、今回の規制緩和をより深く知っていきましょう。
【目次】
制度の概要
「水質管理目標設定項目」の農薬類の目標値の規制緩和と聞くと、「これまで農薬が入っていなかった水道水に、農薬が入ってしまうのではないか」と不安になる方もいるようです。
しかし、これは誤りで、正しくは「万が一水道水に農薬が入ってきても、目標値の濃度を超えないように厳重に管理する」というものです。
そもそも農薬は、農作物の育成を促進したり、雑草の除去に使用したり、害虫などから農作物を守るため、欠かせないものです。各農作物には、農薬の残留基準量が定められており、各農薬ごとにも使用できる量が決まっています。そのため、高濃度の農薬が直接蛇口から出てくるなどということは考えられません。
しかし、風雨や土壌からの流出などを経て、水道水の元となる源流に農薬が流れ込んでしまう場合はあります。そのため、私たちの家の蛇口に到達するまでに、浄水場などで厳しく水質が検査されています。
ここでは、そもそもの水道水における水質基準や、農薬類の分類区分について解説していきます。
水道水の水質基準
水道水には、厚生労働省より、実に51項目もの水質基準が定められています。この基準をすべて満たさないと、生活用水として私たちの家庭に届けられることはありません。
また、水道水の水質基準は「体重50kgの成人が1日2Lの水を飲む」という条件などから、生涯にわたって飲み続けても、健康に影響のない許容濃度が求められています。
ここでは、そんな水質基準について、詳しく解説していきます。
・水質基準項目
水道水は、水道法第4条の規定に基づき、「水質基準に関する省令」で規定する水質基準に適合している必要があります。この水質基準項目は大きく分け、下記の2種類に分けられます。
- 人の健康に影響する項目(ヒ素、シアンなど)…31項目
- 快適に水道水を利用するための項目(かび臭物質、濁度など)…20項目
各項目において、例えば一般細菌は「1mlの検水で形成される集落数が100以下」や、大腸菌は「検出されないこと」など、条件が細かく定められています。
都道府県や市区町村の水道事業者は、この基準をクリアした水の供給が国から義務付けられているのです。
・水質管理目標設定項目
利用者の健康や生活に何らかの影響を及ぼすことが懸念される水質項目は、「水質管理目標設定項目」とし、目標値が示されています。これらは水質基準ではないため、水道事業者には測定などの義務はありません。
しかし、国では水質基準に準ずる項目として自主的に管理することを求めています。
「水質管理目標設定項目」は、ニッケルや農薬類など、27項目が定められています。毒性や水道水の検出量などを鑑みて、「基準値とするまでもないが、測定・監視を続ける必要がある」とされているのです。
こちらも水質基準項目と同様、亜塩素酸は「0.6mg/L以下」など、項目によって具体的な目標数値が定められています。
・要検討項目
ダイオキシン類や、ビスフェノールAなど46項目が含まれています。これらのうち8項目の目標値は暫定であり、21項目については、毒性や水道水中の存在量などの情報が不十分という理由で目標値も設定されていません。
国としては、今後、データの収集を図っていく方針のものです。各種項目の詳細は、各都道府県の水道局のホームページなどから確認することができます。
農薬類の分類区分
農薬類は、水道水の供給条件となる「水質基準項目」には含まれず、これを補完する「水質管理目標設定項目」に位置付けられています。厳格な「基準値」ではなく、一段下の「目標値」が定められているのです。
農薬類は水道水から検出される可能性が高いものから順に、下記の3つに分類されています。
・対象農薬リスト掲載農薬類
農薬類は、水道水の供給条件となる「水質基準項目」には含まれず、これを補完する「水質管理目標設定項目」に位置付けられています。厳格な「基準値」ではなく、一段下の「目標値」が定められているのです。
農薬類は水道水から検出される可能性が高いものから順に、下記の3つに分類されています。
目標値の1%を超えて浄水から検出されるおそれがあるもの、または検出のおそれが小さくとも社会的な要請があるものです。114項目が設定されています。
・要検討農薬類
対象農薬リストに掲載しない農薬類のうち、積極的な安全性評価及び検出状況に係る知見の収集に努めるものです。(目標値が未設定であるが、既存の許容一日摂取量を用いて算定される評価値の1%を超えて検出されるおそれがあるものを含む)16項目が設定されています。
・その他農薬類
対象農薬リストに掲載しない農薬類のうち、測定しても浄水から検出されるおそれが小さく、検討の優先順位が低いものです。86項目が設定されています。
厚生労働省では農薬類の健康影響や検出頻度の調査を継続的に実施しており、その結果に応じて水道水の安全性が十分に確保されるよう、目標値の変更や分類の見直しを行っています。
今回の目標値の緩和は、これによるものです。
目標値や分類が見直しになる項目
2022年4月1日の農薬類の目標値規制緩和に伴い、いくつか見直しされた項目があります。一つは、目標値そのものが緩和された農薬。もう一つは、これまで設定されていなかった目標値が新規に定められた農薬。そして、農薬類の分類区分が、より厳しいものに変更されたもの、新たに検査対象となる項目の4種類に分けられます。
ここでは、種類別に変更点をまとめていきます。
・目標値が緩和される農薬
農薬に求められる、「水質管理目標」の目標値が緩和された農薬は、以下の2点です。
■ホスチアゼート 0.003mg/L → 0.005mg/L
■ウニコナゾールP 0.04mg/L→0.05mg/L
ホスチアゼートは、果物や野菜などに幅広く使われる有機リン酸系の殺虫剤です。
ウニコナゾールP は、植物の成長を調整するのに用いられる農薬です。
緩和に至った理由は、新たな目標値である分量が含まれていても、人体に影響がないということが、最新の食品健康影響評価の結果から判断されたためです。
「食品健康影響評価」は、食品を食べることによって有害な要因が健康に及ぼす悪影響の発生確率と程度を、科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価したものです。各省庁と連携された食品安全委員会によって評価されます。
目標値が新規に設定された農薬
これまで目標値が設定されていませんでしたが、新たに目標値が設定された農薬は、以下の1種類です。
■クロロピクリン目標値0.003mg/L
新規目標値が設定された理由は、人体に影響があるという調査結果が出たためです。
より厳しい分類へ変更される項目
農薬類の分類区分が、より厳しいものへ変更されたのは、以下の項目です。
■イプフェンカルバゾン
「要検討農薬類」から「対象農薬リスト掲載農薬類」へと分類を変更する(目標値に変更なし)
変更理由は、厚生労働科学研究において、原水、浄水においてイプフェンカルバゾンが検出されており、人体に対する影響が懸念されるためです。
新しく検査対象になる物質
今回の改定で、新たに検査対象になった物質は下記1種類です。
■オキソン体
厚生労働科学研究において、これまではメチダチオンのみが検査対象となっていました。
しかし、メチダチオンが塩素消毒されたときに生成されるオキソン体にも人体への悪影響があると確認されたため、メチダチオンとオキソン体を合算して検査することとなりました。
厚生労働省に寄せられたパブリックコメントの結果
食品健康影響評価や厚生労働科学研究から、目標値が緩和された項目があることが分かりました。
しかし、これは検査の結果、目標値が緩和されても人体への影響があまりないと判断された結果となります。規制緩和の内容全体を確認すると、むしろ安全性においてはより追及される形になったと言えるでしょう。
しかし、こうした改正を受け、令和3年8月~9月に厚生労働省が募集したパブリックコメントの内容を見ていくと、正しく改定内容が国民に伝わっていないと思われるものが多くありました。
ここでは、一部パブリックコメントの紹介と、それに対する政府の回答をかいつまんで載せていきます。
勘違いしやすい情報や、浮かびやすい疑問が簡潔に回答されているため、一つずつ確認していきましょう。
ホスチアゼートについて
■「あえて数値緩和をする必要はない。むしろ目標値を下げるべきではないか」
農薬類の目標値は、1日に飲用する水の量を2リットル、人の平均体重を 50kg という条件のもと、許容一日摂取量(ADI)の10%という、WHOの水質基準設定方法を基本としています。
緩和前のADI=0.001mg/kg 体重/日という数値が、今般、内閣府食品安全委員会の食品健康影響評価により ADI=0.002mg/kg 体重/日と新たに評価されました。その影響で、適正に数値緩和を行ったものです。
■「過去5年間で、4箇所目標値を超えているにも関わらず緩和するのはなぜか」
平成26年~30年の結果を確認したところ、平成28年に緩和前の目標値の1%値を超えた検出地点は4箇所あったが、目標値を超えている地点は0である。
緩和後の数値に置き換えても、目標値を突破している地点はないため、緩和は妥当であると言えます。
■EUにおける飲料水指令と比較して、ホスチアゼートの目標値が高い
ホスチアゼートは人体に影響する毒性が低く、日本では生涯に渡り継続摂取をしても健康に影響がない水準を基に設定しています。
一方、EUでは個々の毒性評価に関係なく、農薬の基準値は一律で 0.0001mg/Lと非常に厳しい基準が定められているため、目標値にズレが生じています。
イプフェンカルバゾンについて
■イプフェンカルバゾンは目標値を引き下げるべきである
イプフェンカルバゾンは、平成 31 年4月に「要検討農薬類」に分類し、その際に食品健康影響評価の許容一日摂取量(ADI)を基に目標値を算出しています。ADIは、その時点での科学的な水準に基づいて算出される客観的な数値のため、これを基準に比較検討した結果、目標値の引き上げに踏み切っています。
水質管理目標設定項目について
■水道水に農薬を混入しないでほしい
水道水を作る際に、農薬を混入させることはありません。水道水のもととなる水の中に農薬が残留していた場合を考慮した上で、水質管理目標を設定しています。
その他
■水質基準逐次改正検討会のメンバーに農業者や市民を加えるべき
水道水質基準等については、最新の科学的知見に従い常に見直しが行われるべきであるとされています。「水質基準逐次改正検討会」では、関連分野の専門家を構成員として検討を行っており、現状の検討体制は妥当と考えます。
より安心なお水を飲むには
人間の体は6割が水分でできており、水は、私たちの生活に欠かせないものです。
日本の水質基準は、世界レベルで比較しても厳しく定められており、安心して飲める水ではあります。
一方で、残留塩素の濃度の上限のみ設定されていないのも事実。
日本の安全な水の基準値は、体重が50kgのケースで計算されているため、赤ちゃんや小さいお子さんのいるご家庭はもちろんのこと、より安全なお水を飲みたい人も、自宅で浄水できる浄水器の設置を検討してみてはいかがでしょうか。
据え置き型浄水器「WACOMS TRUST」の開発元であるグループ会社ニューメディカ・テック株式会社は、多くの人々に「安全・安心」な水を提供するべく、浄水器開発をスタートさせました。会長である前田 芳聰は、宇宙航空研究開発機構JAXAと共同研究を行い、革新的な技術開発力で高い評価を得て、被災地での支援活動などに活かしています。
こうした研究開発結果を応用し、逆浸透膜方式浄水装置の低圧・小型化を実現したのが「WACOMS TRUST」です。
世界最高レベルの浄水器という安全性だけでなく、口当たりの良いおいしいお水を家庭で手軽に楽しめるのも、WACOMSの浄水器のメリットです。
水道水の安全基準は年を重ねるごとに検討され、改良されてはいますが、浄水処理の段階で、全ての不純物を取り除くことは難しいとされています。
だからこそ、技術力の高い会社で開発された浄水器を導入し、自分や家族の健康を「水」から守ることが大切になってくるのです。
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